第2話 : カウントアップ対決！

ダーツマシンは避けないし、バリアも張ってない

(とあるゲームセンター)

ガク

あー、仕事疲れた。部長の話長すぎだろ......
今日は軽く投げて、サクッと帰ってビールでも......ん？

アカリ

むむむむむ......

ガク

昨日のギャルだ
なんだあ？ ダーツ構えたまま、唸っているぞ

アカリ

ぬぬぬぬぬ......！

ガク

......早く投げないと、タイムオーバー取られるぞ

アカリ

あ、ガク！

アカリ

......話しかけないで
今、こいつ（マシン）との間合いを計ってるんだから

ガク

間合い？
スローラインからマシンまで、きっかり244cmだ
昨日も今日も明日も変わらん

アカリ

甘いわね、ガクは
物理的な距離の話じゃないの

アカリ

こいつ、私の覇気にビビって、微妙に重心をずらしてるのよ
ほら見て、あの真ん中の黒い丸
さっきより小刻みに震えてるでしょ？

ガク

......
それはお前の手ブレだ
あと眼精疲労だ。 ブルーベリー食って寝ろ

アカリ

はあ！？ 失礼ね！
私の動体視力はマサイ族レベルなのに！

アカリ

実際、さっきから投げた瞬間に「スッ」て避けられるんだから
でなきゃ、私の完璧フォームから放たれた矢が、あんな端っこに刺さるわけないじゃない！

ガク

......そうか
俺にはマシンが止まって見えるよ

アカリ

あー！ 信じてないな！
ほんとだもん。 避けたんだもん！

アカリ

もしくは的の真ん中に強力なATフィールドが張られてるのかも

ガク

（ため息）
ATフィールドねぇ......
なら俺がその結界、中和してやるよ

アカリ

は？ 中和？
何する気......

ガク

よく見てろ
（スッ......ズキュゥーン！）

ガク

あれれー？
ブル入っちゃったぞー？
おかしいなあ、マシンは避けるしATフィールドも張ってるのにねえ

アカリ

ズルい！！！
今の絶対なんか仕込んだでしょ！
磁石！？ それともマシンのAIを買収した！？

ガク

フッ、往生際が悪いな......
自分の実力不足を認めない限り、一生うまくならんぞ

アカリ

ムカつくー！！！
その涼しい顔がマジで腹立つ！

いいわよ、そこまで言うなら証明してやるわ！
勝負よガク！
私が本気出せば、あんたの点数なんて余裕で超えられるんだから！

ガク

ほう......素人が、俺に挑むか
いいだろう。その鼻っ柱、へし折ってやる

ガク

ゲームは『COUNT-UP（カウントアップ）』
ただ点数を積み上げるだけの単純なゲームだ

アカリ

上等！
負けたらジュース奢りだからね！

大人気ないオタク

ガク

先行は俺だ
格の違いを見せてやる

ガク

(スッ......ズキューン！ ズキューン！ ズキューン！)

ハットトリック: ブル3本のアワード

ガク

フッ......まずは軽くハットトリックだ
1ラウンドで150点
これがAフライト(上級者)の世界だ

ガク

(...当然って顔しながら、ほんとはめっちゃ嬉しい) →

アカリ

うっわ、大人げな......
初心者の女子相手にイキり散らかすとか、そういうとこだよ？

ガク

うるさい！ 勝負に手加減は無用だ！

ガク

ほら、お前の番だぞ
真ん中(ブル)か、トリプルリング(点数3倍エリア)狙ってみろ
狙えるもんならな

初アワード達成！

アカリ

言われなくても！
見てなさいよ......こないだ覚えた「紙飛行機」投法！
（フワッ......）

（タンッ！ …… ピシュッ！ …… ズドン！）

1投目、20のシングル（20点）
2投目、手元が滑って......19のトリプル（57点）
3投目、さらに大きくズレて......15のダブル（30点）

アカリ

おっ、なんか結構点数入った！
狙ったとこと全然違うのに！
合計...えーと......107点？

ロートン: 100点以上達成のアワード

ジャンジャカ、ジャカジャカジャン！！
LOW TON（ロートン）！！！

アカリ

うわっ！？ ビックリした！！
なに！？ 警報！？
アタシなんかやらかした！？ 警察来る！？

ガク

（マジかよ......いきなりロートン出しやがった......）

ガク

......ごほん
落ち着け。誤作動じゃない。「ロートンのアワード」だ
1ラウンド（3本）の合計が100点を超えた時に出る、特別な演出だ

アカリ

ロートン？ 豚カツ？
てか、この機械めっちゃ褒めてくんじゃん！
画面キラッキラだし、重低音響いてるし

ガク

キャッチ（狙い外のラッキー）が良かったにしても、いきなり出せるもんじゃないぞ
アカリ、お前すごいな

アカリ

へへっ！
てかこれめっちゃドーパミン出るね！
自分が投げた矢でこんな音鳴るとか、全能感ハンパないんだけど！

ガク

まあ、マグレだろうけどな！
勝負はまだ始まったばかりだ

メッキが剥がれる時

2ラウンド目も安定して得点を稼ぐガク
そしてアカリの投げる番

アカリ

ふっふっふ
コツは掴んだわ。 要は気合いでしょ＞
見てなさい、ここから全部真ん中に入れて逆転......
とりゃあ！

（ベチッ！ ...... ガシャン！ ...... 1点！）

アカリ

あれっ！？
なんで！？ さっきと同じように投げたのに！
またマシンが避けた！？

ガク

避けてない
さっきのは力が抜けていただけだ
「入れよう」と色気を出して力んだ瞬間、指先が狂ったんだよ

ガク

俺を見ろ
常に一定。常に脱力。だから外さない
（シュッ……ズドン！ ブル！）

アカリ

ぐぬぬ……！ 機械じかけのメガネめ……！
点差が開いていく……！

最終ラウンドの奇跡

迎えた最終8ラウンド
アカリ 270点 vs ガク 580点
勝敗は決していたが、アカリは諦めていなかった

アカリ

（......勝ち負けはどうでもいい）
（あのかっこいい音......あの「快感」をもう一回味わいたい！）

ガク

（......ん？ 雰囲気が変わった？）

アカリ

マシンの動きとか、ガクの小言とか、どうでもいい
あそこの黒い点に、吸い込まれるイメージ......いけっ！

シュッ...... ズドォン！！

ガク

インブル（ど真ん中）！？
しかもかなり鋭い飛び......今の、狙って入れたのか？

アカリ

......あっ、入った......
今の、なんか気持ちよかった......！

しかし、奇跡は続かない
2本目、3本目は大きく外れ、ゲームセットとなった

ダーツは「再現性」のゲーム

ガク

終了だ
俺のスコア 650点
アカリは 340点。俺の勝ちだな！

アカリ

くっそー！！
最後のは入ったのに！ なんで続かないのよ！
体が言うこと聞かない！ キーッ！！

アカリ

ねえ、おかしくない？
最初は「天才！天才！」って騒いでたのに、途中から急に塩対応？
この機械、情緒不安定すぎない？

ガク

機械は正直なだけだ
お前の投げ方が雑になったから、反応しなくなったんだよ

ガク

(......最後の一投は見事だったけど)
負けは負けだ。ジュース奢れよ

アカリ

納得いかない！
もう一回！ リベンジ！
次はアタシも本気出すから！ さっきのは「チュートリアル」だったことにする！

ガク

おい、もう遅いぞ
俺は明日も仕事が......

アカリ

（チャリーン♪ 100円投入）
はいスタート！ 逃げんの禁止ね！
あの「ズキュゥゥン！」って音が出るまで帰れま10（テン）だから！
覚悟しなさいよオタクくん！

ガク

......やれやれ
とんでもない「体力オバケ」に捕まっちまったな

ガク

まあいい、付き合ってやるよ
ダーツの夜は長いからな